2020年のバイオ燃料に関するニュースまとめ!Top 20 of 2020 BiofuelsDigest
明けましておめでとうございます。
昨年は途中から更新が完全に止まってしまいました。
昨年途中に日本に帰国したため、今後はカナダ関連の最新情報を記すことは出来ませんが、今後も個人的に気になるエネルギー・環境関連のニュースをまとめるなど、定期的に更新できるよう努めようと思います。
早速、昨年度も取り上げた、Biofuel Digest誌の記事で、2020年のバイオ燃料に関するニュース Top 20 of 2020が興味深かったので、共有します。
#1 Biofuels Mandates Around the World 2020
世界中(65の国:EU 27カ国、アメリカ大陸 14カ国、アジア太平洋 12カ国、アフリカ・インド洋 11カ国、EU非加盟ヨーロッパ 4カ国)のバイオ燃料の規制と目標の総説記事。9月に改訂版の記事が投稿されています。日本は含まれませんが、大国から小さな国・地域まで、様々な国と地域のバイオ燃料の最新動向を簡単に知ることが出来ます。
#2 The Best Places to Work 2020
読者投票で決められた働きたい場所・企業。先進バイオ燃料(従来の薪や焚き火以外のバイオマス燃料)に関わるあらゆる組織が対象で、生産者・研究機関・研究所・供給者・投資者などが、297箇所が投票されました(アカデミックや教育機関は対象外)。
ちなみに5位がPOET、4位がFluid Quip Technologies、3位がLanzaTech、2位がICM、1位がPraj Industriesでした。
#3 The NEXT 50 Companies to Disrupt the World* (*in a really great way) for 2020
既存のオールドエコノミーからバイオエコノミーを基盤とした急速な革新や自然、再生可能資源の持続可能な利用への転換を促進し、従来のマーケットを破壊す科学技術を持つNEXT 50の企業が紹介されています。
最新のバイオエコノミーは多様化しており、燃料、ケミカルス、食料品、新規作物、動物飼料などの企業が選ばれています。具体的には、材料系17社、作物開発やAgtech*が7社、食料品や飼料が9社、燃料&ケミカルスが11社、バイオロジーが11社、選ばれています。
* Agtech:AIなどを活用し、収量、効率、収益性の向上を目的とした農業、園芸関連の農業分野におけるテクノロジー。
#4 50 Hottest Companies in the Advanced Bioeconomy for 2020
年に一度アメリカで開催されるAdvanced Bioeconomy Leadership Conference (ABLC)で表彰されたバイオエコノミー関連の50の企業が紹介されています。2008年以降毎年表彰されているのですが、従来はアメリカの企業が大半だったのに対し、今年はアメリカ以外の企業がほぼ半数選ばれているのが特徴です。
#5 Super clear, super thin, super durable: Zymergen bends it like Beckham, electronics-wise
アメリカ・Zymergen社が開発した新規材料”Hyaline”に関する記事。エレクトロニクス分野への応用に向けた極薄フィルムで、フレキシブル回路や、ディスプレイタッチセンサー、印刷可能なエレクトロニクス等で既に使用されています。微生物を用いた発酵で生産した原料のみを利用しており、持続可能な社会の実現に向けて革新的な技術と期待されています。透明で薄くて耐久性の高いフィルムが、非化石資源から創製できるのは素晴らしいですね。
#6 From Food to Fuel – White Dog Labs converts ethanol plant to alternative protein production
エタノール産業およびトウモロコシ農家はCOVID-19以前から、干ばつや洪水等の天災や、原油価格の高騰、中国との貿易問題などに悩まされていた。同時に、アメリカ内では、精肉工場の閉鎖が相次いでおり、肉などのタンパク質源が不足している。
そのような中、DelawareのWhite Dog Labs社が、エタノールプラントをタンパク質の大量生産プラントにRe-purposeする計画を発表しました。北米ではBeyond Meatという代替肉(また記事にしたいと思います)が普通にスーパーでも売っているほど、代替肉等のビジネスが注目されています。第六位に選ばれるほど注目を集めているのですね。
5月に投稿されたCOVID-19に関する記事で、バイオ燃料とは全く関係のない記事です。今年を象徴する記事ですね。
#8 Phillips 66 to build world’s largest renewable diesel, sustainable aviation fuel plant
TexasでPhillips 66社が世界最大の再生可能ディーゼル工場を建設することを発表したニュースがランクイン。何と年間80億ガロン(300億リットル)のディーゼルが生産可能なプラントで、2024年には操業開始の予定。原料は食用油やグリース、大豆油を用いる再生可能エネルギーである。
#9 The Hand Sanitizer Market: a salvation for beleaguered ethanol producers, or not?
3月に投稿された記事。バイオエタノールはアメリカで最も普及しているバイオ燃料の一つだが、コロナ禍で輸送用燃料の需要が減少し、価格が低下。一方で、消毒用アルコールの需要が急速に高まり、在庫が不足していた。通常、アルコール類は酒税対象で、工業用アルコールや消毒用アルコールなどは詳細に分類されており、決められた用途以外での販売は禁止されているが、このパンデミックに対し、the Alcohol and Tabacco Tax and Trade Bureau (TTB)は、一部のアルコール燃料業者に対し、消毒用アルコールとしての販売を許可した。その結果。Amentis, Inc.はModesto近郊で年間6,500万ガロン規模のエタノールプラントで消毒用アルコールとしての販売を発表した。
ちなみに日本でも酒造メーカーが消毒用アルコールを販売していましたね。
#10 Renewable diesel expanding with petroleum-to-renewable refinery conversions
再生可能ディーゼルはまだ新しい技術だと思っていませんか?2010年に初めての商業用の再生可能ディーゼルの製造施設が操業開始して以来、既存の石油リファイナリーから再生可能ディーゼルへの大きな転換が進んでいる。2010年には78MMGY だったのが2018年には397MMGYに到達し、Fuels Instituteの最新のレポートでは2022年までに3,000MMGYに成長する見込みを予測している。本記事では、なぜ再生可能ディーゼルがここまで急速に成長してきたか、についてまとめている。個人的に興味深い記事なので後日まとめたいです。
#11 MEGaproject: UPM and its $600M gambit in renewable chemicals
フィンランドのUPM社が、ドイツ・Leunaで取り組まれている、固形木材からモノエチレングリコール、リグニンベースの再生可能な機能性フィラー、モノプロピレングリコール、産業用糖類を生成するバイオリファイナリー研究に6億ドルの投資を行なったというニュース。現状の年間キャパシティは22万トンで、2022年末には操業開始予定。木材の分解には超臨界流体技術を採用。
#12 Gevo’s historic $900 million offtake deal with Trafigura Group
コロラドのGevo社が、Trafigura Groupと再生可能ハイドロカーボンの9億ドルの長期供給契約に合意したニュース。本契約では、Trafigura社は2500万ガロンの再生可能ハイドロカーボンの輸送が盛り込まれており、2023年に開始する再生可能な航空用燃料の一部として低炭素プレミアムガソリンに用いられることが期待されている。
日本ではカルビーのポテトチップスが最も有名ですが、北米ではLaysのチップスがリーディングカンパニーで、スーパーでもよく見かけます。本記事は、ニューヨークのAnellotech社が、このLays社のポテトチップスの袋から有用な化学物質に変換する技術(Plas-TCat program)を開発したニュース。具体的には、飲料用ペットボトルの原料に用いられるp-キシレンに加え、ベンゼンやトルエン、オレフィンに変換できる。実は技術・発想自体は特別目新しいものではないが、身の回りのゴミが宝物に化けるのはインパクトがあって面白いですね。
大手航空会社のDelta社がベンチャー企業であるNorthwest Advanced Bio-Fuelsと再生可能な航空用燃料の供給契約に合意したニュース。その契約内容は規模が大きく、200万ドルの初期投資に加え、さらにGevo社と怪物級の契約が予定されている(一応非公式)。
#15 Enerkem, Shell, Suncor, Proman’s new $669 million biofuels baby
カナダ・ケベック州にて、タイトルの4社がケベック州及びカナダ政府の協力のもと、7億ドルのバイオ燃料製造プラントを建設する、というニュース。本プロジェクトでは、20万トンの非再生可能廃棄物や木材廃棄物を1.25億トンのバイオ燃料に変換し、同時に世界最大級の再生可能水素及び酸素の生成施設も含まれる。
#16 Inside GranBio, NextChem’s new partnership to “blow out” cellulosic ethanol global roll-out
ブラジルのGranBio社とイタリアのNextChems社が第二世代バイオエタノール*の製造に向けて戦略的提携を結んだニュース。GranBio社はバイオエタノール製造技術に取り組んでおり、2.2億ドルを投資して南半球で初めてのセルロース系エタノールの生産プラントを操業している。現在、毎年3千万トンの第二世代エタノールを生産している。NextChems社が持つエンジニアリングインテリジェンスやグローバル力を生かし、第二世代エタノールのグローバルな商業化を目指している。
* 第二世代バイオエタノール:デンプンや糖蜜を原料とした従来のバイオエタノールと異なり、樹木や草本などのバイオマス資源を原料とし、セルロースやヘミセルロースといった多糖類成分を基質としたバイオエタノール。
#17 Fulcrum fires back in Abengoa controversy
CaliforniaのFulcrum社がNevada, Reno近郊で取り組んでいるSierra Biofuels projectにおいて、1億ドルのコスト超過等の問題を抱えていることを報告した記事。
アメリカ・エネルギー省が、プラスチックの再利用や新たなバイオベースプラスチック等の研究開発に2700万ドルを投資するニュース。例えば、藻類由来の生分解性ポリウレタンや、バイオベースの熱可塑性ポリウレタン、再利用不可な廃プラスチックの有用モノマーへの変換や、再生可能なバイオマス由来ポリエステルなどが挙げられる。本記事では、採択されている12のプロジェクトに関して、細かに開設されているので、興味のある方はどうぞ。
#19 What impact do Low Carbon Fuel Standards have on fuel prices?
Low Carbon Fuel Standardsが燃料価格にどのような影響があったのか、に関して具体的なデータを用いて論じられている記事。ちなみに、Low Carbon Fuel Standardsはガソリンやディーゼルなどの既存の化石資源由来燃料と比較して、炭素排出量を削減するために制定されたStandardです。特にTop downとBottom upの二つに視点から比較検討されています。Top downは全世界で初めに導入されたCaliforniaとアメリカ全体の10年間の数値を比較しており、ガソリン・ディーゼルともに価格には大きな影響がない、と結論付けられている。Bottom upでは、アメリカ海軍のGreat Green Fleet missionに応用した例から論じられている。このGreat Green Fleetは、アメリカ海軍が、従来のディーゼル燃料とバイオ燃料の組み合わせを50%で使用することを2009年に開始した政策。燃料価格への影響について漠然と不安を掻き立てるマスコミが多い中、具体的な数値を提示して論じている記事なので、ぜひ詳細はご確認ください。
テキサスにて、ExxonMobil社がGlobal Clean Energy Holdings社と年間1.05億ガロンの再生可能ディーゼルを五年間購入することに合意したニュース。食料穀物と競合しない休閑地の作物(カメリナ:アブラナ科の一種)を原料として利用している。
今年はやはりCOVID-19関連のニュースが目立っていましたね。再生可能ディーゼル関連のニュースが多くランクインしており、関心の高さが伺えます。
今年はCOVIDの影響で、テレワークの普及など生活様式が大きく変容しました。EUを含む欧米諸国では、この機会を利用し、脱炭素に向けた気候変動対策を考慮し、同時に生態系や生物多様性の保全を通して災害や感染症などにもレジリエントな社会モデルへ移行しようとする「Green Recovery」の考え方が提唱されています。
コロナ禍で一時的にエネルギー消費量の増加が鈍化すると予想されるものの、依然エネルギー問題は重要な人類の課題であり、今後もバイオ燃料を初めとした再生可能エネルギー分野は注目度の高いフィールドですね。