カナダ在住研究者のつぶやき

バンクーバー在住の研究者が、個人的に関心の高いエネルギー・環境問題や、趣味のトレイル・食べ歩き・酒についてつぶやく予定

本紹介 森林異変ー日本の林業に未来はあるか(田中淳夫著)

 

カナダにいると森林管理システムが整備されており、日本のような未整備で廃れた森林を見ることはほとんどありません。そこで、日本の林業システムの現状について知りたくなって、田中淳夫先生の「森林異変:日本の林業に未来はあるか」という本を読みました。

森林異変-日本の林業に未来はあるか (平凡社新書) (日本語) 新書

 

本著を読む前の私の漠然とした林業に関するイメージは:

戦争時に木材需要が高まり、大量伐採し、成長効率の高いスギ・ヒノキ材の人工林を全国各地に植林した。戦後復興を迎え、外材の輸入を始めた途端、価格競争に負けてしまい、国内材では産業が回らなくなり、林業を廃業する人も続出し、結果的に日本の林業システムが崩壊、手入れされていない荒れた森林が日本各地に出来上がってしまった。。。

という理解でした。大枠は間違っていないかと思いますが、本著を読んだ後、国産材の消費量がやや増加傾向がある、森林組合をはじめとした日本林業のシステムとしての問題など、勘違いしていた部分や知らなかった問題も多く、かなり勉強になりました。

 

 

まず、第一に驚いたのが、木材自給率(国産材の割合)が21世紀に入ってから増加していること。てっきり自給率は低下し続けているものかと思いきや、2000年に18.2%まで低下した自給率も、2008年時点で24%、昨年のデータで見てみると、なんと36.6%まで増加しています。その背景には、中国等の木材使用量増加に伴う外材の価格上昇だけでなく、日本林業界の努力があります。(正確には、それまで他のサービス業界では当然の商売努力がなされていなかったのですね)。

 

そもそも国産材の割合が減少した理由について。常套句のように言われる理由が、「安い外材に押されて」の言い訳。つまり、海外から安い木材が輸入されているために、価格の高い国産材は売れなくなった。この国産材が安くならないのは、急峻な地形や高い人件費のためだ。著者によると、これは真っ赤な嘘。

樹種や寸法、加工度、季節、景気による変動はあるものの、同じ条件で丸太価格を比較したとき、外材の価格の方が日本のスギ材より高い。しかし、ホームセンターなどで外材と国産材の板を比較したら、外材の方が安く感じてしまう。では、なぜ山元の丸太価格では外材より安い国産材が、消費者の手に届く商品となると、外材より高くなるのだろうか。これは、立木や丸太、製材品そのものの値段ではなく、加工され流通する過程に問題があるから。空気売り問題や偽装産地問題、不合理なビジネスなど、日本の木材業界は悪しき慣例が蝕んでいた。(内容は本で確認してください)

戦後、和室から洋室の家の需要が高まるにつれて、肌目の綺麗さより、均質で組み合わせしやすい材料、集成材、合板材の需要が高まり、大径木で高品質、種類も量も消費者の要望に合わせた木材の需要が高まった。一方、国産材は、消費者に「木の特徴を知らない」と文句を言いつつ、補助金頼りの傲慢な商売を続けていた。時流の移り変わりと世の中のニーズの変化に対応できなかった林業界と国産木材業界に責任がある、と著者は指摘している。

現在は、商品の情報開示や販売の安定性、迅速な流通など、他の製造業界では当然のことに取り組み、日本の林業でも設けることができる企業も増えている。

 

その他、ガイドラインや再造林を目指す長期伐採権制度など、日本林業の将来に関する取り組みや提言も含まれています。

ちなみに、以前簡単に紹介しましたが、カナダ(特にブリティッシュコロンビア)は持続可能な森林経営に積極的で、森林認証制度で世界をリードしています。またいつか、森林認証制度に関してもまとめたいと思います。

興味がある方はぜひ読んでみてください。